障がいのある社員の自立と挑戦を後押しするサンアクアTOTO。今回は、その取り組みを牽引する宗社長と、現場で技術サポートを担う廣畑様のお二人にお話を伺いました。

宗加奈子|サンアクアTOTO株式会社 代表取締役社長
1989年TOTO入社。2024年4月より現職。社員が永くいきいきと働きたくなる環境づくりや、アビリンピック(障がい者の技能大会)への積極的な参加など自立と挑戦を促す取り組みを進めている。

廣畑慶美|サンアクアTOTO株式会社 製造部 品質管理課
2001年サンアクアTOTO入社。社員が働きやすくなるための改善活動の推進など技術チームとして社員サポートの役割を担っている。
障がい者雇用の現状とTOTOグループの取り組み
本項では現在の日本における障がい者雇用の現状とTOTOがグループ全体で取り組んでいることについて解説します。
日本の障がい者雇用の現状
2023年の厚生労働省の発表では、日本国内で障害者手帳を持つ人が約1160万人いると言われています。しかしその中で職に就いている方はおよそ65万人です。生産年齢にあたる18歳~64歳は461万人ほどおり、そのうち就労しているのはわずか14.1%ほどです。日本全体の就労率が89.1%ということを踏まえると非常に少ないことがわかります。
1960年に施行された障害者雇用促進法によって雇用の機会は増えてきましたが、まだまだ十分とは言えず、現在2.5%の法定雇用率も2026年には2.7%への引き上げが予定されています。
サンアクアTOTO設立の背景
TOTOの障がい配慮への取り組みは、1964年にアメリカから輸入した「ウォッシュ・エア・シート」の販売から始まりました。これは現在のウォシュレットの原型ともいえる製品で、当初は痔を持つ方のための医療機器として開発されたものでした。TOTOはこの技術を特定の人だけでなく一般家庭にも役立つものとして捉え、日本に広く普及させていきました。
1971年には身体障がい者向けの便器を発売。製品の提供だけにとどまらず、『身体障害者のための設備・器具について』と題したパンフレットを作成し、業界や消費者に向けて福祉機器の必要性を訴えるなど、普及活動にも力を入れてきました。単に製品を造って売るのではなく「社会にとって本当に必要なものを届ける」という姿勢を、TOTOは創業当初から変わらず大切にしてきました。
こうした背景のもと、TOTOは1960年代から障がいのある方への配慮を進めてきましたが、その後はより多くの障がい者が働ける環境づくりを目指して雇用拡大の方針を打ち出します。この姿勢に共感した福岡県から、行政と民間企業が共同で出資・運営する第三セクターの設立提案を受け、想いを共有するかたちで1993年にサンアクアTOTOを設立しました。以来、30年以上にわたって障がい者雇用に取り組み続けています。
TOTOグループの取り組み
サンアクアTOTOは障がい者雇用の促進を目的として設立された会社で、厚生労働省から認定を受けている特例子会社です。特例子会社とは、障がいのある方が働きやすいように特別な配慮や支援を行う体制を整えた会社で、一定の基準を満たすことで認定されます。この制度により、サンアクアTOTOで雇用された障がい者も、TOTOグループ全体の雇用として扱うことができ、法定雇用率に反映されます。
2024年4月時点では321名の障がい者がTOTOグループで働いており、障がい者雇用率はグループ全体で2.65%と法定雇用率を上回っています。
サンアクアTOTOが掲げる3つのビジョン
サンアクアTOTOでは「自立」「信用」「参画」の3つの言葉をビジョンとして掲げています。障がいの有無にかかわらず自立し、仕事を通じて社会の活動へ参画することを目指し、良い品物やサービスを送り届けることで信用を得る。そしてその信用を自信に変えることでさらに自立を後押しする。このサイクルが重要であると考え、日々の業務に取り組んでいます。
- 自立
- 障がいがあるからといって社会に甘えることなく、自立と互助の精神で積極的に社会参加していきます。
- 参画
- 「ノーマライゼーション」の理念に基づき、障がい者が会社生活を通して社会のあらゆる活動に積極的に参加することで、自らの生活ビジョンを築きます。
- 信用
- 品質を重視して社会に役立ち、生活文化の向上に貢献することにより、信用を得て更なる会社の発展を目指します。
サンアクアTOTOは何をしている会社?
本項ではサンアクアTOTOでは普段どのような業務を行っているのか、そして業務を行ううえでの工夫について解説します。
売上の9割は製造。水まわり製品を支える仕事
サンアクアTOTOは、TOTOグループの製造部門の一員として、主に水栓金具の組み立てを担当しています。会社の売上高の約9割がこの製造部門で、TOTO製品に使われる約260種類の小さな部品を日々組み立てています。
JIS認証が生む、仕事への誇りと自信
JIS認証とは、日本国内で製品やサービスの品質・性能・安全性などを統一するために定められた国家規格です。JIS認証を受けた製品やサービスには、JISマークを表示することができます。JISマークは、製品が一定の品質基準を満たしていることを示す目印であり、消費者にとって安心して選べる製品であることを意味します。
サンアクアTOTOでは2020年3月に特例子会社としては初のJIS認証を取得。JIS認証の取得は、高品質なものづくりができるという対外的な信頼の証であると同時に、ものづくりに携わる従業員にとっても、自分たちの仕事が認められたという喜びや誇り、自信にもつながります。
製造と併せて印刷や事務の仕事も
サンアクアTOTOでは製造以外にも取扱説明書の版下データの作成やアンケートのデータ入力といった事務系のサポート業務も行っています。サポート業務部ではDTPやCADの作成、印刷物や名刺などの製作をしており、売上高の1割ほどを占めています。
なお、TOTOグループの社員が使用する名刺の大半は、サンアクアTOTOが印刷を担当しています。
ノーマライゼーションの取り組み
ノーマライゼーションとは、障がいの有無や年齢、国籍に関係なく、誰もが平等に生活し働ける社会を目指す考え方です。サンアクアTOTOでは、障がいのある人とない人が、共に役割を持ち、同じ空間で働くことを大切にしています。
ひとりの働きやすさがみんなの働きやすさにつながる
みなさんはDE&Iという言葉を聞いたことはありますか?DE&Iとはダイバーシティ(Diversity:多様性)・エクイティ(Equity:公平性)・インクルージョン(Inclusion:包摂性)という意味の頭文字をとった言葉で、社会において多様性を認め合い、それぞれに合った対応をすることで成果を出すことを目標とした考え方です。
サンアクアTOTOではこの考えにもう一つのE、イコーリティ(Equality:平等)の視点も足したDEE&Iの考えでより良い職場環境を実現できるように日々取り組んでいます。
誰かひとりに対して有効な施策であれば、働いている全員に展開することでよりよい職場環境に改善できるのではないかという考えのもと、公平と平等の考え方を繰り返して標準化を進めています。
ハード面:働きやすさを支える環境づくり

この項では働きやすい環境づくりを通じたノーマライゼーションの取り組みについて紹介します。
サンアクアTOTOの設立当初は、作業環境や設備といったハード面の整備に多くの苦労がありましたが、現在ではそうした基盤を活かしつつ、メンタルヘルスなどソフト面も重視した取り組みも推進しています。

改善報告シートで悩みを吸い上げる
サンアクアTOTOでの取り組みとして改善提案シートというものがあります。これは日々の業務における困りごとを全体に共有するためのシートで、その悩みをもとにメンバーが知恵を絞って支えます。困っていることを共有し、改善することで自分やみんなが仕事しやすい環境になるという流れが創立から31年間続いているとのことでした。
個々の悩みに対して治具を製作

現場で働く従業員一人ひとりの「個々の悩み」に寄り添い、作業効率と働きやすさの向上を目指して、3Dプリンターを活用した治具の開発に取り組んでいます。具体的には、小さな部品を効率良く数える道具や、部品の向きを正しく取り付けるための道具、落としてしまった部品を拾える道具など、現場の声に応じた改善を日々積み重ねています。

これらの治具の導入により、各作業で数秒単位の時間短縮が可能となり、全体的な作業効率が大幅に改善されました。また、部品の数え間違いや取り付けミスが減少したことで、以前は個数にずれが生じた場合、その分の作業内容を再確認する必要がありましたが、その手間がなくなり、さらなる時間短縮が実現しました。
自動検査や品質管理などのDX化
DXとはデジタルトランスフォーメーションのことを指し、デジタル技術を活用することで業務の効率化を図る取り組みです。サンアクアTOTOでは、自動検査装置を自社で製作・運用しています。
従来は組み立て後にゲージで確認していましたが、現在はカメラによる自動検査に切り替えることで、ヒューマンエラーの防止と安定した品質の確保を図っています。また、通知には音と色を用いることで、聴覚や視覚に障がいのある方でも気づきやすい設計にしています。
生産能率の見える化と進捗管理

サンアクアTOTOでは部品の組み立てを手作業で行っているため、個人差が出やすいという難点があります。そこで一人ひとりに合わせた生産計画進捗管理表を作成して生産能率を見える化。さらに各作業台には生産進捗バーが置かれ、現在の作業が予定通りなのか遅れているのか、先行しているのかが一目でわかるような工夫がされていました。
1年に1回の点検で安全を確保
年に一度の取り組みとして、上司や本人を交えて障がいの変化や施設の安全確認を行っています。使用している車いすや杖を含めたメンテナンスを行い、日々の業務を安全に行えるよう状態確認を欠かさず続けています。
ソフト面:誰もが活躍できる職場をめざして
取り組みは作業環境や設備だけでなく、社員一人ひとりの内面にまで働きかける必要があり、障がいの有無にかかわらず容易ではありません。ここでは働く意欲を高めるソフト面の工夫をご紹介します。
アビリンピック障害者技能五輪
サンアクアTOTOでは毎年アビリンピック(障害者技能競技大会)への出場もしており、日々の仕事で培った経験を活かして多くの挑戦をしています。全国大会で銀賞を受賞した方もおり、職業能力の向上だけでなく障がいへの理解促進にも貢献しています。
障がいの有無に関わらない役職
正社員登用された職員は障がいの有無を問わず同じ評価基準、同じ処遇の仕組みづくりがされています。そのためサンアクアTOTOでは一般社員からサブリーダー、エリアリーダー、係長、課長まですべての役職で障がいのある社員が活躍しています。
TOTO夏まつり
TOTOグループでは地域の方の交流を深める意味も込めて全国13箇所の工場でTOTO夏まつりの催しがあります。このイベントにはサンアクアTOTOも屋台を出して貢献。会社開放日や工場見学などを通じて家族や地域とのつながりを大事にしているところからもTOTOらしさが伺えます。
使いやすさを追求した、工場内の工夫と配慮
本項では工場見学の様子を紹介します。今回は実際に働いている場所や施設の特徴を製造部で働く廣畑さんに案内していただきました。
車いすでも安心の屋根付き駐車場
サンアクアTOTOで働く方の約8割が車で通勤をしています。そのため工場の駐車場は玄関まで屋根付きで、雨の日でも濡れずに出勤することができます。
駐車場の幅は、車のドアを十分に開けられるように広めに設計されており、車いすの方でもスムーズに移動できるバリアフリーにも配慮しています。
いろいろな方がすれ違う廊下では安全に配慮

工場へ入って驚いたのは廊下の広さです。廊下の幅は約3mあり、車いすを使っている方でも余裕を持ってすれ違うことができるように工夫されています。
その他にも視覚障がい者の方から「壁と柱が同化して見づらい」との声があがったことで、柱を赤色で着色。壁と区別しやすくし、安全に移動できるように改善されています。
天井を高くすることで避難までの時間を確保

さらに天井が高く作られているのも安全に配慮したポイントです。これは火災を想定したつくりになっていて、高い天井のおかげで火災時の煙が高所に溜まり、避難までの時間を確保してくれるように設計されています。
使用者に合わせた洗面台やトイレ

サンアクアTOTOではさまざまな障がいを抱えた方が働いており、各々が使いやすいと感じる設備が異なるため、各トイレ個室を広めに設計しています。
便器や手すりの位置は、複数の異なるタイプのものを用意し、身体の状態に合わせて選べるようにしました。さらに、トイレに時間がかかる方でも快適に過ごせるよう、個室内にエアコンを完備しています。
工場のあらゆるところにTOTOが隠されている

サンアクアTOTOの工場建屋にはTOTOの文字が一直線に並ぶ独特なデザインが採用されています。日が落ちて暗くなると中の電気がつくため、高速道路からもTOTOの文字を眺めることができます。
建屋の文字以外にも社内には隠れTOTOが散りばめられており、ふとした瞬間にもTOTOグループの一員であることを感じられます。

TOTOグループ共通で大事にしている先人の言葉
最後にTOTOグループ全体で大事にされている先人の言葉を紹介します。サンアクアTOTOの取材を通じて、先人の言葉が会社全体に浸透し、日々の業務に活かされていることを実感しました。
追求すべきは利益ではなくお客様の満足
TOTOの先人が「良品の供給、需要家の満足が掴むべき実体で、その実体を握り得れば、結果として報酬という影が映る」「追求すべきは利益ではなくお客様の満足」と説いたとおり、サンアクアTOTOを含むTOTOグループ全体には「良品と均質」「お客様に良いものを届ける」という理念が深く根付いています。
良き品物を作る前に良き人を作るのが理想
また、TOTO二代目社長・百木三郎氏が「良き品物を作る前に良き人を作るのが理想」と説くように、障がいのある人もない人も共に働くということが人づくりそのものであり、こうした人づくりが結果として良品の供給とお客様満足へつながっているといいます。
TOTOグループでは多様性を真に尊重すること、障がい者雇用を推進することを良き人をつくることとして考えて、グループだけでなく世の中のノーマライゼーションへ取り組んでいるとのことでした。
TOTOの想いはグループ全体に浸透している
今回の取材を通じ、TOTOグループでは商品づくりだけでなく人づくりにも力を入れていることがよくわかりました。そしてその背景は単なる障がい者雇用の推進ではなく、TOTOグループ全体で大事にしている先人の言葉がDNAとして根付いているからこそ実現できているのだと感じます。
※本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。あらかじめご了承ください。
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